浦沢直樹著「モンスター」

MONSTER 完全版(ビッグコミックススペシャル) 全9巻セット










ドイツを中心としたヨーロッパを拠点に繰り広げられるサスペンス物。
天才脳外科のDrテンマと、ドイツの東西冷戦時代、その後のベルリン崩壊などを背景にした、登場人物の多い作品となっています。


以下、ネタバレ注意



作品が作られたのは、1994年から2001年。ベルリンの壁が崩壊したのが1989年なので、割とヨーロッパ情勢がホットな時代に執筆を開始しています。

パイナップルアーミーを読んだ流れでモンスターを読み始めましたが、これは初読みでした。流れとしてもパイナップルアーミーの後に描かれているのですが、あちらはアクション漫画として、こちらはサスペンス物として読みました。

話はテンマがヨハンを手術して助けるところからスタート。そしてテンマの人生、ニナの人生とクロスしていきながら、ドイツのあちこちで発生する事件が浮かび上がってくる。

テンマやニナの人の好さに共感しつつ、見えてないピースが組みあがっていく。そこに色々な人の人生や人々の生活、家族の思いなどが垣間見れる作品です。

ヨハンは絶対悪のように登場しつつ、タイトルであるモンスターはそもそも何なのか。
フランツの作った絵本が要所要所に登場し、それらがヨハンの行動理念に対する回答と導線になっている。



こちらの絵本は、浦沢直樹氏が翻訳した体で作成されたそうです。

モンスターが表す話自体は作品の所々に出てくるのですが、この作品中に完全な悪は存在せず、キンダーハイム511の被害者だったり、時代の被害者だったりします。

そしてさらに、最後の村にいる人たちは疑心暗鬼の被害者。
どんな人でも、ちょっとしたきっかけでモンスターになる。
最後の下りは復讐の心にとらわれて、子どもをその道具にしようとした母親、そしてそれがために絶望したヨハンの心の渇望と、名前に関する伏線の回収が綺麗に絡み合った感じになっていました。

最後は読者にゆだねる形にしているものの、読後感は肩の力が抜けるような素晴らしさがあります。

どこまで話が組みあがっていくのかわからないほど複雑な背景が存在し、1つ見えればまた1つ奥がある、みたいな作品で夢中になって読みました。